「スペシャルティコーヒーが特別じゃない未来へ」(前編) 京都出町柳、LIGHT UP COFFEE KYOTO店長の末さんが目指す理想のコーヒー屋。

スペシャルティコーヒーが特別じゃない未来へ

 

 

それまで“カフェで飲む嗜好飲料”でしかなかったコーヒーのイメージを大きく変えたコーヒー屋がある。

一昨年の秋、京都の出町柳にオープンしたコーヒー屋、LIGHT UP COFFEE KYOTO。東京の吉祥寺にあるLIGHT UP COFFEEの二号店だ。
徒歩圏内に3つの大学があるこのお店には学生がよく訪れ、ヒノキを使って内装にもこだわった優しい雰囲気の店内には、浅煎りのコーヒーの香りを含んだ落ち着いた空気が流れている。このお店が扱う豆はすべてスペシャルティコーヒーだ。

 

 

スペシャルティコーヒーは、栽培から流通まで高度に管理、洗練されたおいしいコーヒーであるのみならず、それを適正な価格で客に提供することで、コーヒー農家にも利潤が行き渡るという側面もある。おいしいコーヒーを提供しながら、そんなスペシャルティコーヒーを広めようとしているのがこの店の特徴のひとつだ。

以前この店で働き始めた友人に勧められて最初にここのコーヒーを飲んだとき、その爽やかな酸味がとてもコーヒーのものとは思えず、新しい種類の飲み物を飲んでいる感覚になったのを鮮明に覚えている。この店のコーヒーは、僕のコーヒーの認識を変えた。
そんなLIGHT UP COFFEE KYOTOに何度か行くうちに、店長の末さんの優しく穏やかな人柄に僕は惹かれていった。この店の店員は皆、柔らかく親しみやすい人たちだが、末さんは特にその何気ない表情や言葉遣いからにじみ出る優しさが素敵で、たぶん隠れたファンは結構多いんじゃないかと思う。

「いつか末さんとゆっくり話がしたい」そんな個人的な思いを、インタビューという形で実現した。ここのコーヒーを僕に教えてくれた、この店のバリスタでもある笹田君と3人でコーヒーについて雑談しながら、末さんにとっての理想のコーヒー屋やLIGHT UP COFFEE KYOTOの今後に迫ります。

 

 

森本:コーヒーそのものというよりも、どちらかというとコーヒーのある空間が僕は好きで。コーヒーの香りだけで落ち着けたり、コーヒーがあることでリラックスして話せるようなことがありますよね。末さんはコーヒーがその場にもたらす効果ってどんなものがあると思いますか?

末さん(以下「末」):まずはコーヒーがあることで時間帯や人を問わずに、集えるような空間になるのかなって思います。レストランや飲み屋さんと違ってコーヒーは微妙な時間でも飲めるし、コーヒーがあることで人が集まる場所になって、その香りやリラックス効果でひとりでもほっとしたり、友達と話したりするために来る人は多いですね。
あとコーヒーにはきっと気持ちをポジティブにする効果があって、その場に暖かい空気が流れやすい。例えばお酒を飲みながらだと愚痴を言い合ったりすることがわりとありますよね。そうやって愚痴ることも否定はしないけれど、コーヒーを飲みながらそういう話をすることってあまりなくて、明るい話になることが多いいんじゃないかな。

森本:この店って、お客さんどうしだけじゃなくて、店員さんとお客さんの会話もすごく多いですよね。

:僕が以前働いていたスタバは、サービスはすごいいいんだけどスピード感が求められていて、レジで少し話すくらいでじっくりお客さんと会話する機会は少なくて。僕はお客さんと話すのが好きで、仕事でもそういうことがしたかったので、今はやりたいことができている感覚があるかな。

森本:LIGHT UP COFFEEの理念と末さんのやりたいことも一致していますか?

:個人としてやりたかったことはできているけど、お店としてもっといろんなことができるはず。1年目にできなかったイベントを2年目は積極的にしていきたいと思っています。

森本:将来もし末さんがLIGHT UP COFFEEから離れて自分で別のコーヒー屋をするとしても、イベントとかはやりたい?

:そうですね。セミナーをたくさんしたいと思っていて。自分が以前大阪の前の店で働いていたころ、コーヒーを学びたくてもセミナーをやっているような店が少なかったんです。大阪でも少なくて、やっていてもドリップのセミナーだけだったりして。東京のお店ではやっているのが羨ましかった。将来自分で店を出すとしたら、自分の出身地である大阪か、あまりスペシャルティコーヒーが普及していない店でそういうことをやりたいかな。

森本:スペシャルティであることは末さんにとってやっぱり特別ですか?

:実は特別ってわけではないんだけど、普通に飲むコーヒーがスペシャルティコーヒーになる、スペシャルティコーヒーが当たり前になることが理想で。今はまだ日本ではそれを飲むためにお店を選んでお越しいただいている段階なんだけど、自分の店の周りに住む人だけでもいいので、スペシャルティを飲むことが当たり前になるようにしたいですね。

森本:今はまだ一部の人が知っている段階で、それを広めるためにはスペシャルティコーヒーの、他のコーヒーとは違う特別な部分について発信していかないといけないのかもしれないけど、いずれもっと普及してそれがスペシャルでなくなるといいですよね。

 

 

地域に溶け込む、心地の良い空間を目指して

 

森本:そういえば、末さんがアメリカのポートランドに旅行に行ったという話をこの前少し聞いて、それについても今日伺いたかったんです。

:ポートランドに行ったのは、まだスタバで働いていた2016年の2月。ちょうど今から2年くらい前ですね。一週間ぐらいの個人旅行でした。僕は普段の旅行も観光名所とか世界遺産とかではなく、食べ物やコーヒーがおいしいって理由で行くことが多いんです。ポートランドに行ったのも、ほんとそういう感じで。
ポートランドの街って何もないんですよ、正直。そもそもほとんど知られてなくて。「ポートランドってどこ?」とか「なんでそんなとこに?」ってよく周りに言われました。

 

 

森本:最近は街づくりの例として注目されてきていますよね。環境に優しい住みやすい街だとかで。

:そうですね。ポートランドは何もないけど、おしゃれな店や人が多くて、ひげもじゃの人が当たり前にいたりして笑 そういった普通じゃない感じが街を象徴しているんですよね。人も店も独特なんですけど、気取っていないというか、力が入っていない人がすごく多かった。おしゃれな店でも入りづらい感じはなくて、日本人一人で行っても気さくに話しかけてくれてそこにすんなり溶け込めるような。それはすごいいいなあと思った。

 

ポートランドはこのあたり。人口64万人の、オレゴン州最大の都市だ。

 

笹田:その経験をここ(LIGHT UP COFFEE KYOTO)にも取り入れたい?

:うん。森本君が事前に用意してくれた質問項目に、「理想のコーヒー屋」っていうのがあるんだけど、僕はポートランドで体験したお店がパッと思い浮かぶかな。コーヒーって日常的なものだし、おしゃれしていかないといけないような場所にはしたくないんですよ。今はまだコーヒースタンドっておしゃれ的な要素も多いけれど、おしゃれで上品な人ばかりが来るような店にはしたくなくて。自分が客だったらそういうところには入りづらいし、それってすごくもったいないことだと思うんです。レストランとかだったらそれでもいいのかもしれないけれど、コーヒー屋さんでそういう風にはしたくない。そういう意味でLIGHT UPも入りやすい雰囲気のお店にしたいのはある。
それと、まだスペシャルティコーヒーって足を踏み入れにくい、ちょっと難しい印象を持っている方も多いと思うから、将来自分で店をやるときはそこをあえてスペシャルティであることを押し出さずに、「飲んでるコーヒーが実はそういうコーヒーだった」って後で知ってもらうくらいにしたいんです。でもLIGHT UPとしては「コーヒーの文化を変えたい」という理念があって、そこはすごく賛成してます。

 

 

森本:少し大きな話になるんですけど、「こんな雰囲気の街で店をしたい」というのはありますか?

:僕がポートランドの次にいいなあと思ったのが実は福岡の街で。福岡の薬院あたりのコーヒー屋さんを巡っていたときに、福岡だけでその街が成り立っている感じがしたんですよね。東京の要素を持って来たり、他の地域に進出していくようなことがなくて、福岡だけで成長していっているような。コーヒー屋どうしも、自分の店だけが抜きんでていくんじゃなくて、みんなで街を盛り上げていこうとしているんですよね。

僕自身、広い範囲の人に店を知ってもらいたいというより、その街の人とか、狭いところでやっていきたいというのがあるんです。遠くから足を運んでもらうのも嬉しいけれど、それ以上に、その街の人にとってより身近なものになってほしい。
ポートランドで僕がいいと思った店は、店にある机や椅子などが、ポートランドのもので揃えていたんです。ポートランドの職人さんに作ってもらったりして、店にあるもの全部がポートランドのものになっている。自分がもし将来大阪で店をするなら、店内の机や椅子も、大阪のものを使いたいなというのはあります。

森本:家具を作ってくれた人とか、その地域のいろんな職業の人がコーヒー屋さんでつながることができるのは素敵ですね。

 

去年の秋、この店が一周年の日はあいにくの雨だった。少し雨に濡れながらも一周年を祝いに店を訪れると、そこにはおそらくコーヒー好きなおしゃれで上品な人たちが集まっていて、おしゃれじゃない上に服が濡れている自分は実を言うとそのとき、コーヒーを飲みながら少しいたたまれなさを感じていた。

だから「自分もそんな店には入り辛いから、おしゃれな人だけが訪れるような店にしたくない」という末さんの言葉に僕は安心したし、共感した。実現するのは難しいことなのかもしれないけれど、そんな店を応援したいと思った。この国では格差が広がっているというけれど、どんな人でもおいしいコーヒーが飲めるようになって、そのコーヒーを飲みながら職や年齢や立場など関係なく、フラットに楽しく話せる店ができたらいいなあと、インタビュー中に小さな妄想を膨らませていた。

次回は、末さんのコーヒーとの出会いやコーヒーの仕事の醍醐味、LIGHT UP COFFEE KYOTOの今後に迫ります。
お楽しみに。

LIGHT UP COFFEE KYOTO

 

住所:京都府京都市上京区青龍町252番地
アクセス:京阪・出町柳駅より徒歩1分、バス停・河原町今出川より徒歩1分
TEL:075-744-6195
営業時間:8:00~19:00
休業日:なし

2018年02月15日 | Posted in INTERVIEW | タグ: , , No Comments » 

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