障がいのある人の居場所から、ボーダレスな街づくりへ。 堺市浅香山でコミュニティカフェを営むNPO法人kokoima、小川さん、廣田さんたちの挑戦。

障害のある人の居場所が商店街を復活させる

 

病院で写真展をやりながら、患者さんたちと一緒に初めての体験をしていくなかで、「あー」っと気付くわけです。

いかに上下関係を作らないようにと思っていても、病院という枠の中では限界があるなって。3年間いろんなところで写真展をやってきても、わたしたちのメンバーさんは誰一人として退院していなかった。街に出ていく怖さを乗り越えられなかったの。

 

病院は治療者と患者さんが豊かなコミュニティを築ける場所ではあっても、社会との豊かなコミュニティを築く場所ではないでしょ。

「退院したい」と言ったときに「この場所があるから安心だ」って思ってもらえる場を作りたかったの。それは、街で普通に暮らしている人たちと精神障害者の方が同じ時間を共有できるような場所。

 

今回お話を聞かせてもらったのは、2015年に大阪府堺市の浅香山に“Caféここいま”を立ち上げた小川さんと、店長の廣田さんのお二人。お二人とも元々は浅香山病院の精神科看護師をしていましたが、今は浅香山駅近くの商店街の一角にコミュニティカフェやリサイクルショップ、作業所を開き、障害のある人と地域の人達の交流の場を営んでいます。

 

 

病院の近くにCaféここいまを開いた小川さんは、浅香山病院精神科の看護部長を辞職してカフェを開こうとした当時の想いを、インタビューの冒頭で語ってくれました。

浅香山病院は1950年代に全国で初めて精神科のデイケアを始めた、先駆的な病院。小川さんが看護師をやめるまでの数年間、この病院では写真家の大西暢夫さんと一緒に、患者さんの病院での生活を撮って写真展を開き、病院の外の人たちに見てもらうというユニークな取り組みをしていました。写真展に向けて患者さんたちと話し合いながら試行錯誤していくなかで小川さんは、「回復過程のパターンを患者さんにあてはめるのではなく、治療者のほうも初めての体験をしながら進めていくのが本当のリカバリーだ」と気付いたそうです。

 

話を聞きに行った日、Caféここいまは定休日だったので、作業所「おめでたい」で話を伺った。

 

治療者のほうもはじめての体験を一緒にしていく。ハラハラ感もドキドキ感も不安感も、一体になりながら、より沿って動く。

結果はその時は見えていないかもしれない。ご本人がどうありたいかに結果が結びつくという感じ。私も写真展なんかしたことないから、写真をどんなふうに印刷したらいいかも、どの写真が大きくしたときに見栄えがするのかもわからない。

そんなことをメンバーの方々とお話ししながら進めていきました。

 

看護部長としてそうした体験をしながらも、その立場ゆえメンバーさんに直接寄り添うのが難しいことに、小川さんは歯がゆく感じるようになります。メンバーさんの不安やこころの揺れに直接付き合える立場にいたい、そして退院した人の居場所になるような場を作りたいと、小川さんは35年間つとめた病院をやめて、コミュニティカフェを開きました。

Caféここいまが2015年12月にオープンしてから少しずつ、街の人たちもカフェを訪れるようになり、障がいのある方と街の人たちとの交流が増えていきました。
その後商店街の人たちのニーズから、小川さんたちはカフェの隣にリサイクルショップ「ぜろ」を開き、さらに障がいのある人が所属し毎日通える場所を作るために、すぐ向かいに手工芸や編み物などを扱う作業所「おめでたい」を開きます。

Caféここいまや作業所があるのは、パチンコ屋さんやひとつ40円のコロッケ屋さんがある、いかにも“大阪”といった雰囲気の商店街。カフェに入るなんてこっぱずかしいと思っているようなおっちゃんも、リサイクルショップがあればいらなくなった物を置いて行ってくれたそうです。そこで小川さんや障がいのある方とのつながりができ、やがてCaféここいまにも足を踏み入れてくれるようになったといいます。

今ではCaféここいまは、障害のない人にとっても、行けば誰かがいて話ができる憩いの場。障がいのある人と街の人が同じ時間を過ごす様子を近くで見ている店長の廣田さんは「そこに障がいの壁はない」と、日々感じています。

 

このまえ認知症のご主人がいる常連さんがカフェでね、「お父さんに朝四時ごろ起こされて、もううちの人生苦労ばっかりや」って泣いているのを障がいのある方がずっと聞いていたの。常連さんが「今日は話ができてすっとした。うちだってこんな話ができるとこなかったらやってられへんわ」って言って帰っていくのね。

障がいのある人もない人も一緒やって街の人も言ってくれるの。「この人たちのこと知らんかったら、はために怖いとか、格好がだらしなくなってくるとひいてしまったりしていたけど、知り合ったらみんな一緒やな」って。

 

多様な人たちの支えあいが、地域を育む

 

 

この国では何十年も、精神病の人を病院へ入院させて治療する方針をとり続けてきました。やがて病院の外の社会との関わりが減り、外に出ることが少ない状態で20年、30年と入院していけば、退院することに不安を感じるようになる。そんな人たちに今、日本政府や社会は “地域移行”を掲げて退院させようとしています。

僕の頭の中には葛藤がありました。
「住む場所がない、家族が受け入れてくれないなどの社会的な理由で入院している人達に、病院の外に出てその人らしく自由な生活を送ってほしい」、そんな思いがある一方で、「不安を感じている長期入院の人たちに対して外の人間が、退院することを良しとして支援するのはどうなんだろう。退院することで余計に孤独や不安を感じるかもしれないし、もし病院のなかが安心できるなら、高齢になったあとで退院させようとするのは違うんじゃないか。」そんな思いもあったんです。

そのことをインタビュー中につぶやくと、小川さんと廣田さんはこんな話をしてくれました。

 

 

小川さん:私も写真展を始めるまではそう思っていたの。開放病棟にいらっしゃる方たちは、多少の門限がある以外は割と自由な生活をしていらっしゃって。浅香山病院には病院を自由にでて電車に乗ってどこかへいったり、特売日を見てスーパーに買い物に行ったりしていらっしゃる方もいたの。

そういう生活を営んでいらっしゃったら今さら新しい人間関係を作ってね、街に出るとか、施設に出るとかしなくても、病院のなかで幸せな生活を送る方がいいんじゃないかって。
でも、やっぱりそれは違うって今は思う。

森本:退院された方を見てそう思ったんですか?

小川さん:病院を出られた人のなかにもやっぱり、居場所を持ってらっしゃらない方なんかは寂しくてしょうがないから、どうしても再入院を繰り返したり、退院を勧めたら「小川さんは『帰れ帰れ』っていうけど、一人で暮らすのってめちゃ寂しいで」っていう人もいる。だけど、本来ひとは、自分の事柄を決める時に誰かにお伺いを立てないといけないシステムのなかで生きているのはおかしいって、それは本当の生き方じゃないんじゃないかって思うの。

北海道、べてるの家の人は、入院している障がいのある人たちのことを「苦労を奪われた人」っていうの。外で暮らしていたら不安っていう苦労もあるし、親が死ぬっていう苦労もある。入院していたら親が死んだことも隠されてしまう人もいる。病気が悪くなるからってお葬式にも行かせてもらえないとかね。

 

 

小川さん:障がい、病気がゆえに保護されることは、ある意味いいことなのかもしれないけれど、今まで私たちがお世話してきた統合失調症の人を中心に考えると、違うんじゃないかって思うの。本当はもっと彼らにも現実と向き合う力があって、その現実に向き合うときに、安心して頼れる人とか、不安を吐き出せる人が、病院にはいなかったんじゃないか。

今「おめでたい」のメンバーと付き合っているとしみじみと思う。大概の揺れは、関係性のなかで乗り越えていけるんじゃないかって。

廣田さん:カフェに来る町の人のなかにも、やっぱり独りで、ご自身も体の障害をお持ちの方もいて、「うちやって一緒やで!」っておっしゃるんです。
「寂しいのはあんただけちゃうで、うちだって一緒やで。うちだって帰ったら一人やしいつ一人で死んでるかわかれへん。それはみんな一緒やで」って。

小川さん:町の人たちも、結婚して愛し合っていたとしても結局最後は一人ですよ。
最後は一人の人たちがこの街にはたくさん暮らしていて、みんな孤独をかかえていて。
でも街の人も、辛いことも含めていろんな経験をしているから、私たちが対象としている人たちにも優しくなれるんだと思います。

 

温かな想いで溢れた、心地よい居場所「Caféここいま」

 

NPO法人ここいまは、小川さん一人の力だけでできたわけではありません。コミュニティカフェを作るアイデアも、小川さんの考えに共感した7人の人たちと「ここいまハウス構想研究会」という集まりの中ででてきたといいます。最近その集まりのなかで、“ボーダレスタウン”という言葉が出てきました。

「堺市に、どんな境目も持たない街を作る。」

今、ここいまは、そんな大きな目標に向かって進んでいるそうです。

小川さんは作業所「おめでたい」を作るときも、街の人に開かれた場所になることを意識したと言います。お話を伺った「おめでたい」のある建物の一階は窓が大きく、レースのカーテン越しに外からでも中の様子がわかります。

ここに遊びにやってくる街のおばあちゃんが、障害のある人が編み物をしている様子を見て「編み方を教えてほしいわ」と言ってくることもあるのだそう。

看板猫が大きな役割を果たしていることも、ここいまを語る上では欠かせません。「週休2日で働いてくれている」と小川さんが話す、ここいまのアイドルでもある、イケメンねこのふくまるくん。彼を見るために「おめでたい」を覗きに来る人もいるそうです。

誰でも気軽に入っていける空間。街の人との交流を生むことで境目をなくしていく目標が、カフェや作業所ではもうすでに、当たり前になっているように感じました。

 

超イケメンなふくまるくんの横顔と、カフェに飾られていたふくまるくんの写真

 

後日僕がCaféここいまをおじゃましたら、障がいのある人も地域の人も、店の人もお客さんもみんな家族のように親しげに話していて、とても暖かな気持ちになりました。
買い物袋を両手に店に入ってきた、近くでスナックをしているというおばちゃんは、僕のいたテーブルの向かいに座って、この街や商店街のこと、スナックでの話などもたくさん教えてくれました。15年以上前からこの街に住んでいるというそのおばちゃんは、この店ができてから、それまでシャッター通りだった商店街のシャッターが少しずつ開いていくことを嬉しく思っていると話していました。

障がいのある人とない人、子どもと若者とお年寄りなど、様々な人が交わる空間にぬくもりを感じることがあります。それはきっと、自分と違う人に対して心を開くことで、自分自身に対してもおおらかになれるからなんだと思います。言葉を慎重に選んだり、空気を読んだりしないといけない緊張感がなくて、ただ同じ場を共有しているものどうし、相手を思いやることができる。
そんな雰囲気のあるCaféここいまは、またいつでも戻ってきたいと思える場所でした。

 

 

地域に根差した活動でありながら、NPO法人kokoimaは、すでにたくさんの人にインパクトを与えています。 2017年の夏にCaféここいまがある浅香山の商店街で小川さんたちが開いたお祭には、遠くからもたくさんの人が来てくれたそう。

小川さんたちが2016年の冬に、浅香山病院に長い間入院されているご高齢の方たちと沖縄旅行へ行ったときのことを大西暢夫さんが撮影した「オキナワへいこう」という映画があります。夏祭りの日にそれを上映すると見た大学生や地域の人たちが涙を流し、今年2月に東京の練馬区で浅香山病院の人たちの写真の展示とともに映画の上映を行うと、二日間で600人もの人が見に来たのだとか。

近くにある大学の学生や、商店街・地域の人たちとのつながりを大切にしながら、障害のある人の居場所づくりからボーダレスな街づくりへと進んでいく小川さん、廣田さんたちの活動に、今後も目が離せません。

 

NPO法人kokoima & cafe ここいま

 

 

住所:大阪府堺市香ヶ丘町1丁7番8号
アクセス:南海高野線「浅香山駅」から徒歩3分
TEL:072-220-5458
営業時間:10:00~17:00
休業日:月曜・火曜

2018年05月05日 | Posted in INTERVIEW | タグ: , , , , , No Comments » 

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