「“幸せ”ってなんだ?」 フクシの現場で働きながら思うこと

福祉の仕事の目的って?

 

“障がい者福祉”と呼ばれる分野で働いていて、脳性麻痺などの障害のある人の日々の生活のサポートをしたり、養護学校に通う子供たちと放課後に過ごしたりしていて、毎日のように思うことがあります。「この人たちに自分はどのように関わっていくのがいいのだろう」ということ。

食事介助や入浴介助など、日々やるべき仕事に加えて、例えば彼らにやりたいことができたときに、ガイドヘルプなどの形でサポートするのも大事な仕事だし、日常を楽しく過ごしてもらうために普段のかかわりのなかで冗談を言ってみたり、相手がふざけていたらそれに付き合ったりもします。言葉での意思表示が難しい障害のある子供にも、支援計画はきちんとあるので、それも意識しなければなりません。

 

福祉ホーム”うえんのすみか”でのリビングの様子

 

けれど僕が働く法人では、最低限のマナーやルール、支援計画、障害特性への配慮などを除けば、利用者との関わりにはマニュアルなんてないし、先輩たちを見てもメンバー(利用者)との1対1の関わり方は人それぞれ。自分が大事にしている考え方やそれまでの経験から得たその人の哲学のようなものを指針にして障害のあるメンバーと関わっているように見えます。

本人が安心して過ごせるように丁寧なケアをするひと、大事なポイントを抑えながらも、楽しんでもらうためメンバーと会うたびにふざけたことを言ったりしたりするひと、いつもハイテンションでケアに入るひとや、冷静な人。本人の力を伸ばすために、メンバーのできることはなるべく自分でやってもらうことを特に大事にしている人。

それはスタッフの個性でもあり、メンバーとのかかわり方をお互いに尊重し合っているから、たとえ他のスタッフが自分と違うことを意識していても、ぶつかり合ったりギクシャクしたりすることはほとんどありません。ある意味とても自由でやりやすい職場なのかもしれません。

けれど働き始めのスタッフは迷い、考えます。さて、自分は一人一人のメンバーとどのように関わっていけばいいのだろう。例えば普段かかわっている脳性麻痺の人に、行きたい場所ややりたいことがあったときに、限られた時間のなかで何を優先的にサポートしていけばいいのか。

方向性のようなものがないと、迷いすぎてしんどくもなってしまう。職場全体の指針がもっと明確にあればやりやすいのに・・・。

以前同僚とそんな話をしていたとき、「メンバーの幸せを目指していることだけは、ここの職員皆に共通している」と彼は言いました。

 

 

幸せ。

「福祉」という言葉を辞書で調べても「しあわせ」という単語が最初に出てきます。

けれど何がその人にとっての幸せかなんてなかなかわからないし、自分が幸せに感じることをメンバーに押し付けてもいけない。相手にとっての幸せを追求して行くのが大切なんだろうけど、もしかしたらそれは本人もまだわかっていないかもしれない。

じゃあまずは、「“一般的に”何をすれば人は幸せになるのか」を学んでみよう。福祉職の人間なら「幸せ」についてもっと詳しくならないといけない。そう思い、「幸せ」というあまりにも漠然としたキーワードについて学ぶことにしました。

幸い、世界には幸福(Happiness)の研究家がたくさんいます。

なかでも、「世界一幸せな国」とも言われるデンマークの首都コペンハーゲンで幸福について研究するHappiness Research InstituteのCEO、Meik Wiking(マイク・ヴァイキング)さんの著書“THE LITTLE BOOK OF LYKKE”(lykkeはデンマーク語で「幸福」の意。)には、膨大な数の実験結果や統計データなどを元に得られた知見が数々のエピソードとともにまとめられていました。

 

“THE LITTLE BOOK OF LYKKE”

 

3つの“幸せ”

 

序盤で彼は、「幸福」を3つの次元に分類します。『日々その人が経験している感情を指す情緒的な側面』(affective dimension)と、『自分の人生や現状を評価した時に全体的に満足できているかどうか』という、認知的な側面(cognitive dimension)、それにeudaimoniaと呼ばれる3つめの側面。これは、『有意義で目的のある人生かどうか』というものです。

幸福がこの3つの側面に分類されるとしながら、この本では主に認知的な側面に焦点を当てて、人生の満足度を高めることに関する研究について、togetherness(連帯感), money(お金), health(健康), freedom(自由), trust(信頼), kindness(親切)の6つのキーワードに分けて説明しています。

 

助け合える人が近くにいることが大事?

 

“togetherness”の章には、「幸福な国の人々は強い連帯感を持っており、幸福だと感じている人は必要なときに頼れる人がいる」というWorld Happiness Reportの調査結果が引用されています。特に身近に頼れる人がいることが大切なようです。オランダには「遠くの友人よりも良い隣人を持つほうが良い」という諺があり、毎年5月26日を「隣人の日」として、祝う文化があるそう。もともとはオランダのコーヒーメーカー、DOUWE EGBERTSが始めた取り組みで、道に机やいすを並べ、普段話すことのない近所の人たちとコーヒーを飲みながらパーティーをするのだとか。

Bofællesskabと呼ばれるデンマークの共同住宅の紹介もされています。1972年に完成したある共同住宅には、27の家族が共同で暮らしています。プライベートのキッチンや居室などは各家庭にもありますが、共同の大きなキッチンやダイニングスペース、共同菜園や子供の遊び場などがあり、夕食は毎日みなで食べるのだとか。夕食係を当番制にすることで家事の負担を減らすことができ、食費も安く抑えられるようです。今では約5万人がデンマークの共同住宅で暮らしていますが、Bofællesskabは今でも入居希望者が多く、順番待ちなのだそう。身近に、気軽に話せる人や悩みを相談できる人がいるのはたしかに心強いし幸せなことだと思います。

福祉の現場でも、今回ぼくが同僚に考え事を話したように、日々感じていることを共有できる人が職場にいるかどうかで働きやすさが大きく変わってくる気がします。

 

証明された、“自然”のもつ力

 

“health”の章では、日本発祥の“森林浴”も取り上げられています。自然の景色、香、音が血液中のコルチゾールレベルを下げ、免疫機能を高めることが知られていますが、カントリーウォークやガーデニングなどの活動が、参加者の気分や自尊心に良い効果を与えることも証明されています。

 

 

“mappiness project”という大規模な研究もイギリスで行われました。6万5千人を対象に行われたこの研究では、調査者が1日1回以上、ランダムな時間に被験者の携帯に音を鳴らし、その瞬間どんな気分だったか、誰といたか、どこにいたか、何をしていたかを尋ねるというものです。350万回以上の回答から、都会の中にいるよりも自然のなかにいるときのほうが、人は幸福度が高いことがわかったといいます。

そしてこの本のなかで最も興味深かったのが、“kindness”の章で紹介されていたヘルパーズ・ハイという言葉。メンバーに他愛の精神がなければ社会は幸せにはならないということを示す統計結果もあるようですが、人にやさしくすることは社会にだけでなく、その人自身の脳にも影響するそうです。食べ物を食べた時やセックスをしたときに活発になる報酬系の側坐核が、募金などの利他的な行為をしたときにも反応するということがわかっているそう。人類が生き残るためには協力することが必要だから、他者を生存させるための行為で幸せな気分になるように人間の脳はできているようですね。

 

自分も相手も一緒に幸せになるために

 

こうした数々の事例を挙げ、幸せについて解き明かした後に、マイクさんはよりよい社会を作る方法として、イギリスのトッドモーデンというまちで10年前に始まったIncredible Edible(インクレディブル・エディブル)の例を紹介しています。Incredible Edibleは、都市菜園を通して環境へのふるまいを変える手助けをしながら、より優しい世界を作ることをめざしたプロジェクトです。駐車場の脇や道路、お墓など、町中のいろいろな場所に食べられる野菜を皆で育て、だれでも自由にとって食べてよいことになっています。このプロジェクトを通して町の人たちがつながり、収穫した野菜で地域の子供たちと大人が一緒に料理をするようになるなど、様々な活動に結びつき、そのまちに暮らす人々も日々の生活に魅力を感じるようになっているのだとか。

とても魅力的な取り組みですし、福祉ホームや事業所を拠点に地域の人たちを巻き込んで同じような取り組みをできたらおもしろいと思います。けれど、日本でいきなり始めるのは少し勇気がいるかもしれません

 

 

では、この本で得た知識を持って福祉の仕事に立ち戻ったときに、僕たち福祉職の人間が利用者を幸せにするために何を意識していけばいいのでしょうか。

例えば、障害のあるメンバーのニーズを満たすだけでなく、メンバーと一緒にほかの人を幸せにするようなプロジェクトをできる範囲でやっていく。皆で出かけるときには、自然のある場所を意識して選んでみる。近くの学校や地域の人たちを巻き込むようなイベントを一緒にして、身近な人たちとつながる。そんなことが考えられます。

けれどあくまでこれは一般論でしかありません。大事なのはやはり、その人の見てきたものや、その人が今感じている世界を知り、その人にとっての幸せを追求していくこと。難しくてもそれを知ろうとすることが、人と接する仕事の醍醐味なのかもしれません。

そうやって日々の仕事のなかで自分なりの目標を設定して利用者と関わっていくことは、働き手にとっての“目標のある有意義な人生”にも繋がりそうです。

 

 

2018年06月06日 | Posted in COLUMN | タグ: , , No Comments » 

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